fredag 16. oktober 2009

日本の政治がわからん

私は15年以上ノルウェーの大学で日本語を教えている。はじめは日本語の授業だけだったが、学生数が年々増えるにつれプログラムが拡大され、日本社会や日本事情の講義もすることになった。前知識のない人の前でしかも母語で教えるわけなので、自分の専門じゃない分野でもなんとかなる。今まで教えてきたテーマの中には、西洋の東洋学科で必ず議論されるあの「日本人論」、宗教(仏教、神道、儒教の紹介など)、教育(義務教育、高等教育の状況)、そして歴史と政治が複雑に絡み合っている教科書問題・従軍慰安婦問題・靖国問題などがある。ただ紹介する段階なので、自分が理解したところ、知識をもっているところを伝えればよいのだ。ここまではまあ何とか自信を持って教壇に立ててきたわけである。やろうと思えば「高齢少子化問題」とか「男女平等」などもできるのではと思う。

しかし、二つやりたくても絶対教えられないテーマ、政治と経済がある。経済は数学が苦手ということもあげられるが、経済学者だって矛盾した把握を提供してくるので何がなんだかさっぱり理解できない。最近の世界経済危機の原因と回復方法なんかはよく新聞で取り上げられるが、よくわからない。ノルウェーの経済実態さえ理解できないのに日本の状況はわかるはずもない。言うまでもないが、理解できていないことは人に伝えることができない。

ところが政治の場合は自国だと動きをつかんでいるつもりでいるので、初心者にならいろいろ説明ができそう。ただ機械的に国会の仕組みや政党を列挙するのではなく、政党のアイデオロジー背景とか議論の中に出てくるアーギュメントなどもすぐに想像ができる。(とはいっても、ノルウェーの政治が特に好きなわけではない。実は政治家が話し出すと政党所属から何となくどんな内容の発言をするのか予想できるので面白くない。「またか」といった感じである。)

ならば日本の政治も似たような立場で理解できるかというとそうではない。未だに新聞を読むのに苦労するので言葉の問題も当然あるが、それとはまた別の理由がありそうだ。一つの国の政治を理解するためにはまずその国に住んでいないとなかなか把握しづらいであろう。身にしみて感じる問題が出てきてはじめて国がやっている政治との関係がわかるのかもしれない。

それ以外にも理由がありそうだ。日本人の知り合いなどに日本の政治がよくわからないというと、「私たちだってわからないのよ」と返してきたりする。(そんなはずはないんじゃないかと思いつつ、若いノルウェー人に聞くと同じ答えが出てきそうだと認めるが。)もう一つの理由は人口の違いだろう。ノルウェーはわずか400万人しかいないのに対して日本人は一億人を超えている。それだけ人がたくさんいると政治家というのは国民からかけ離れている存在であるのに決まっている。逆にノルウェーでは友達でいてもおかしくない政治家がかなりいて、現在の首相(ストルテンベルグ首相)は私と同世代なので例えばパーティで会ったとしたらけっこう話が合いそうな気がする。

一回だけ日本の国会で行われる議論が完全に理解できたときがあった。2年前ぐらいの安部政権の時で戦争売春の謝罪問題が持ち出されたときだ。野党(当時は民主党)の小川敏夫議員が米国のホンダ議員による決議案を言及して安部首相にきつく日本国の公式反応を問いかけた。かなり複雑なテーマではあるが、歴史上の知識が足りたせいか、状況も発言がよくわかった。非常に悲惨なテーマであると認識しながらも理解したことで嬉しくなったのは事実で、これなら授業が一つできるなと思い、それぞれの立場と意見をなるべくわかりやすく学生に伝える作業に取りかかった。

つまり、コンテクストが把握できると、その中身も見えてくるということである。ニュースではコンテクストがすでに知られているのを前提にして書くことが多いのでよけい難しい。では早速、一つコンテクストがわからないものを挙げてみよう。最近日本の政権が代わり、新しい国務大臣が任命されたが、中には特命担当大臣の福島瑞穂がいる。見覚えのある顔だなと思い、やはり学生時代に「朝まで生テレビ」で見た人なんだなと思い出す。ネットで検索したら彼女に対してかなりネガティブなコメントがずらりと並び、あまり人気がないのかという印象を受ける。なんでだろうと思い、ユーチューブでも動画を探してみたら一つ国会での議論が見つかった。どうも北朝鮮ミサイルの話だが、細かいところまでやはりわからないし、コメントを見てもハテナ。「朝鮮に帰れ」とか書いているが、よくわからない。国会の議論というのは(どの国でも)ある種の(複雑な)芝居で、登場人物の詳細説明がないとやはりわからないことを痛感する。

自国だとコンテクストが幅広く理解でき、例えば自分の子供たちに政治に関係のある質問をされると子供でもわかるように説明できる。そうか、やはり子供向けの説明を探した方が一番いいかもしれないと私。なるほど、子供のサイトを探すことだ。でも、子供向けだと知識や事実が中心で、政治の実態(議論の内容、政治家のプロファイルなど)は書かれていないようだ。

というこのごろの私であるが、お手上げ状態がいつまでも続きそうである。来学期はまた初級日本語のコースが始まるが、全く日本語の知らない人に「あいうえお」を教えるのは比べると非常に楽なものである。



Ingen kommentarer:

Legg inn en kommentar